夙川の地にこだわる歴史

エルベランは、今から6 0年前、「北欧の銘菓 エルベ」という屋号で、西宮市常盤町のたった5坪の赤いテントのお店から始まりました。店主は、先代 柿田 衛と芙佐子。当時はまだ珍しい工房型スタイルの洋菓子店でした。しかし、もっと珍しかったのは生クリームの美味しさを知ってもらうために、砂糖の量を半分にしたあっさりとした洋菓子を販売したことでした。当時はまだどっしりとしたバタークリームや砂糖をふんだんに使用した生クリームが普通で「お宅のケーキ、砂糖入れ忘れたんちゃう?」とお叱りの電話がかかってくることもしばしばあったそうです。しかし、この味に時代が追い付く日がきっとやってくる。舌の肥えた夙川の人たちはきっとこの味を喜んでくれるはずだ。そう考えていた父は5年後、 緑が豊かな夙川に移転を決意。

ここから夙川を愛し、夙川の地にこだわるエルベランの歴史が始まりました。

香りや味で蘇る感情と思い出

その後、屋号を現在の「エルベラン」に改め、2011年には代替わりも果たしました。私は、2代目就任に当たり、創業当時から作り続けている黄色いレモンカスタードクリームとたっぷり真っ白な生クリームの「レモンパイ」や真っ赤ないちごが美味しそうな「いちごのショートケーキ」「プリントルテ」「シャンティーシトロン」などの超定番の洋菓子や、香ばしいパイを巻き付けた独自のスタイルの「エルベランクッキー」をはじめとするクッキーたちを辞めようとは思いませんでした。古いから、流行じゃないからと辞めることは簡単ですし、売り上げを伸ばすことを考えればそうする後継ぎも多いでしょう。しかし、香りや味と言うものは人の感情や想い出と直結していると言います。楽しかったこと、嬉しかったこと、家族やご友人との幸せな記憶・・・エルベランの洋菓子とはそれらを思い起こしてくれるタイムカプセル。それは、 流行っては消えていくものには決して真似のできない事です。たとえばレモンパイを食べながら、あんなことがあったね、あの時はこうだったね、そう言って分かちあえる想い出こそがこころの最高の贅沢なのだとわたしは信じています。

60年を超えても変わらぬ魅力

本物の生クリームを使った洋菓子、本物のバターを使ったクッキーには60年を超えてもまだ美味しいと言って頂ける魅力があります。私たちがパティスリーと名乗らないのは、日本の風土と、私たち日本人が育んだ洋菓子と言う文化に誇りを持っているからです。そして文化とは、皆さんのこころの贅沢からあふれたひとしずくが集まり、流れ、大きなうねりとなったもの。こんなにキラキラしたものを手放せるはずがありません。また今日から先代から受け継いだ文化である洋菓子を皆さまの大切な想い出と共に店頭に並べ、その美味しい記憶を育んでいきます。

分かちあう想い出、こころの最高の贅沢をどうぞご賞味ください。